追加中です。
2017年の文など(Twitterのログ含む)
2017201820192020

2017年08月17日


店の隅にぽつんと置いてあったコーンフレーク。
それは一見何の変哲もないコーンフレークだった。
手にとり、買い物カゴに入れる。
たまにはこういうものもいいだろう。半額だし。
翌朝、目を覚ました男がテレビをつけると、そこには昨日買ったコーンフレークを片手に興奮気味に語る女性が映っていた。
ネットを見てもそのコーンフレークは やけにもてはやされている。
半額で売れ残り感のあったコーンフレークに一体何が…
男は事件風のナレーションを浮かべ ほくそ笑みながらコンフレークを器に盛る。
食べても何の変哲もない味だ。
妙だな、と思った。
翌日もその翌日も やけにそのコーンフレークはもてはやされ、店頭では山積みになり、主婦たちは我先にと買い物カゴに入れていた。
もう半額ではなくなっていたが、それでも他のものよりは数十円安かった。
それからしばらくして徐々にこのコーンフレークには何やら体に良い成分が入っているのだとか、これだけで食事は十分なのだとかおかしな論調になっていった。
もちろん反対意見もあったが、どんどん黙殺されていった。
それだけ主婦は疲れていた。OLもサラリーマンも疲れていた。お金もないし。
みんなコーンフレークを歓迎していた。
はじめのうちはフルーツを加えたり、アイスを加えたり、他の料理に加えたりしていた家庭もあったが、やがてそれのみで済まされるようになった。
人々がコーンフレーク以外を取らなくなった頃、コーンフレークは固形のバーに、液体に、と変化していった。
工場の人手不足のため会社は人員を募集すると、親たちはこぞって子を入社させた。有名企業で働けるのだからみな満足であった。
やがて他の食材は見向きもされなくなり、農家の人々は土地を売ってそのコーンフレークだったものを手に入れた。
子供のなりたい職業No.1を獲得し、食のノーベル賞的なものを受賞した頃、
気づけば人々は巨大な工場で働くために生まれ、コーンフレークだったものを得て食べ、工場の中で死んでいくだけの生物となりつつあった。

ある日、神様は地上に使いをくださいました。
そして、天の使いは地上のすべてを焼き払いました。
これは、完全に工場と同化してしまった魂らを救済するためでした。
ベルトコンベアを流れゆく疲弊した魂は、一体何を夢見ていたのでしょう。

2017年08月16日


憂鬱なんですよ。
生まれてから死ぬまで同じことを言うわけじゃないですか。
同じことを言い続けるわけです。
なぜかって?
伝わらないからですよ。伝わりっこない。
生まれた瞬間でわかっていることです。そんなものは。
天才じゃないんだから。
でも言い続ける。尊厳として。
天才に生まれなかったものの最後のあがきとして。
変わらないことはわかっているけど何もかもわかっているけれども0.00000000000死ぬほど0を並べた後の001ミリでも何かが変わったらいいな〜あはは〜なんて自己防衛しながら。
でもそんなこと憂鬱の中やってらんないんですよ。
言い訳して辞めてしまうんです。
何故かって憂鬱だからですよ。毎日毎日しんどいんですよ。ロボットじゃないんだから。ご飯だって食べなくちゃいけないし。
でも拾ってまた歩き始めるわけじゃないですか。
何故かってぼくが人間だからですよ。
思想と心中するような人間に生まれたからですよ。
古臭い尊厳を持っているからですよ。
神様と子供たちを愛しているからですよ。
しかし毎日憂鬱で、どうあがいても状況は悪くなるばかりで、
憂鬱なんですよ。

2017年08月10日


ぼくはぽたぽたと涙を流していた。
となりの席の田中くんはずるずるとおそばを食べている。
前の席の佐伯くんはぼくの涙をタライに溜めていた。
佐伯くんはぼくの涙を集めているのだ。
なんで集めているのかを聞くと「いいのいいの、」とよくわからない返答をした。
そしていつの間にか目の前のタライは消え、
いつの間にか授業が始まっている。
小学校は不思議がいっぱいだ。

2017年08月09日


博士曰く、人々が争うのは恐怖心ゆえであると。
それならば恐怖心を持たないロボットは争いを起こさないのではないかとぼくは思った。
もっとも、恐怖心を持たないためには敵や寿命、死の恐れがない状態にならなくてはならないが。
仮定の話なのですべてに目を瞑りぼくは次を考える。
次に、そのロボットを全人類に配布する。1人に1体ずつ、満遍なく。
ロボットが完全に1人の人間を理解し、サポートできるように。
1人の人間を完全に理解したロボットは人間に必要な仕事を奪わない。過剰分のみを片付ける。
それにより人々は今までにない余裕を持つことができるだろう。勿論精神面においても。
人々の不安やストレス、どうしようもない負の感情の循環も場合によれば解消できるだろう。
ロボットの辛抱強い対話とサポートによって。
おそらく始めの人間はロボットに夢中になり、寄り添うだけで人口の減少がそのまま進むが、生まれて最初からロボットがいる世代以降、徐々に人口は増加してゆくだろう。
子育ての負担が圧倒的に軽減され、健康もまた保たれるからだ。
批判も徐々に減るだろう。批判をなくすための全人類配布である。
なぜならそれにより人々はロボットによって育てられ、愛情を深く理解し、厚い信頼を寄せるからだ。
あらゆる問題を、ロボットが人に辛抱強く寄り添うことによって解決し、人類が同じ過ちを繰り返さずに成長してゆくならばいずれ人は恐怖心を克服することができるかもしれない。少なくとも争いを起こさなくなるくらいには。
このことはロボットによる洗脳と捉える向きもあるかもしれない。そもそも冒涜だとも。
だから実際には全人類の配布は極めて難しい。
でもそれが実現すれば人々は順調に平和な世界を得ることができるかもしれないのに。
そこで博士は微笑んで言う。
たとえば、僕と君にその技術があり、ロボットを作ったとしても、全人類への配布準備にかかる前に僕らは死ぬし、悪用されるのがオチだろうね。今よりもっと酷いことになるかもしれない。
規模や年数を考えても絶対に信用できる仲間や後継者をつくることは不可能だろう。人はつまらないことで欲に屈するし、日常の中で意志は簡単には続かない。それに恐怖心というものは根深い。
ロボットが暴走しなくても人間は暴走するからね。
残念だね、さて、次の世界平和の方法は何かな?
博士はとびっきりの笑顔で僕の頭を撫でまわす。
知っているのだ。ぼくが一生満足のいく方法を考え出せないことを。
もっとも博士は数秒前にぼくが頭の中でつくった架空の存在で、はじめから実在しない。
ぼくは目を瞑る

2017年08月08日


ぽたぽたと垂れる水の音が 彼のまぶたをくすぐる
ぽたぽた ぽたぽた と
彼の包帯は解け 川になる
水があふれてみずみずしい桃をはこぶ。
ぽたぽた ぽたぽた と水が垂れ、
ぼくは桃を撫で皮をむく。
ぽたぽた ぽたぽた と
彼の頬を撫で、 桃のかけらを口にはこぶ。
ぽたぽたと水が垂れ、
水は川をつくってゆく

2017年08月07日


あらゆる知識は宙ぶらりんになっている。
僕は名作というものを読まなかった。
名言というものが嫌いである。
ビルの屋上から世を憂い投身する。
ジャムを塗りたくったパンを齧りながら点けたテレビのニュースだ。
スーパーで安売りのジャムだった。
僕のドッペルゲンガーが
僕は本屋に赴き、名作を手にとる。
名言を愛してみようと思ったのだ。